「沼地の魔女」
捺さん @nat_zki
土人形を作る女
 土くれの瞳が僕を見た。
 扉を開いた僕の眼前に立ちふさがったのは、精巧な作りの土人形、少女の姿を模した土くれだった。それを目にしただけで僕はまったく凍りついてしまって、情けないことに、これでは本来どちらが人形であるのかも分からないようなありさまだった。///
「月を割って、あなたのもとへ」
えこさん @eco_miyasaki
お騒がせテレポーター
 ニュースキャスターは鼻息荒く訴える。「ないないありえないこんなの夢ぜったい嘘イヤアアアアアアアア」と叫んだひとりの女学生が、唐突に夜空に現れるなり、月面観測地点のカメラの前を横切っていったこと。おかげで観測所は大混乱、技術者たちが研究家から非難轟々の憂き目にあっているということ。///
「葬歌の金糸雀」
青波零也さん @aonami
都市に沈んだ機工師
 まだ工業都市ラプラスがこの世に名をとどろかせていた時代。天上の音楽に焦がれた機工師が作りだしたのは、えも言われぬ声で歌う金糸雀であった、という。各地に残された彼の伝承は数多く、けれどもどれも漠然として要領を得ない。残された金糸雀が人の声で歌うのか、どんな金属でつくられたのか、飛行する力を持っていたのか。///
「金色の椿」
くまごろうさん @border_sky
 庭の椿はぼく自身だ、と言われたのは、奴がまだ楼閣の下働きだったころ。
 落ちたら死ぬとでものたまうつもりか、と、異人の作家の名を出して、あのときはせせら笑ったものだった。なにせ彼ときたら、この国の者では持ち得るはずもない金色の髪を、臆面もなく振り乱すのだ。目の前をちらちらとよぎって煩わしいものだから、ひとにぎり掴み上げて、根元から切り落としてやったこともあった。
「仕事終わりにスイーツを」
レンイさん @ripple_lianyi
 スピーカーを最大音量に、マイクを口元へ。余った片手でバイクの均衡を取り、サイドカーの先輩とうなずき合う。直線道路をひた走るトラックに向けて、わたしは大声で警告を飛ばした。
「そこの大型車両! 止まりなさい!」
 第二地区の子供が車にはねられた、犯人は未だ逃亡中、至急捕縛に向かわれたし、と通信機に非常連絡が届いたのが、五分とすこしだけ前のこと。
「パセリ、セージ、ローズマリー」
はるのさん @LittleLessLeast
少年霊を弔う娘
聖都アシェンダルに、その年何度目かの獣の襲撃が行われた。捕囚として殺されかけた娘を救ったのは、孤独に飽いた天狼の少年。
日がまた沈めば、遠吠えは月を連れてくる。見えない首輪を振り払うには、ふたりはあまりにも無垢だった。