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――形なきその墓標に、参るだれかの姿があった。
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- この命も長く持つまい――尾先から染み出す血色の毒液が、砂の足跡に点々と模様を残した。ロカは背に載せた非常食を一匹手に取ると、鋏角でまだやわらかなそれに喰らいつく。…
- 「貴女を迎えに来たんです」 ――貴女の、養父に頼まれて。突然の訪問を詫びたあとに、彼はそう言った。静かに雨が降る午後のことだった。そうこれは、嘘つきたちの愚かな旅のはなし。…
- ハライが生まれる前のこと。新月の夜に、父は不思議な夢を見たと言う。――夢とは思えぬ足取りで見渡した、そこは真昼の宮殿だった。…
- ちはやぶる神鳴り走る曇天に、白き旗が立つ。ここは戦場である。半刻前に降った雨でぬかるんだ大地は乾く間もなく、血で再びぬかるみ、片腕を失って這いつくばる人、人、…
- 「手をにぎってくれないか」戦火の夜、耳に入ったのは知らない兵士の声だった。小柄な見かけのせいか、おれを女の代わりにしようとする輩は多かった。…
- 薄いオレンジのロングワンピースに、長いベージュのストール。足元は低めのミュールに、腕には上品なブレスレットと時計が並んでいる。…
- 紙提灯を忘れたことに気がついたのは、墓参りも終盤に差し掛かった頃だった。未練がましく足元を見回しても、小石と雑草と目が合うばかりで、影も形もありはしない。…
- 妹が焼身自殺した。「本当に見ます? そのまま引き渡せるけど」警察官が尋ねる。安置所へ続く廊下が蛍光灯を反射して鈍く光っていた。リノリウムの白が目に突き刺さる。…
- 私が花を供えると、隣にいた黒い猫が、にゃおと鳴いた。夜にこの場所へ訪れるものは三種類いた。一つは余程の物好き。一つは怖いもの知らず。そしてもう一つは、…
- 「いつかはあそこに行こう」――月の兎がどのくらい跳ねるのか、この目で見てみたいじゃないか。宵闇に浮かぶ丸い月を指さし、男は痩せた肩を揺らした。…
- ゴーレム、とりわけ墓所を護る巨兵の双眸に嵌める魔石はジェードと相場が決まっている。攻城ゴーレムならばもっと強い魔石がいくらでもある。…
- ――ピッ ピッ ピッ ピーーーその日、世界は終わりを告げた。「君のその頭脳――いや、執着、というべきか。なかなかのもんだし」口の端を上げながら、それでも冷めた瞳がこちらを見る。…
- 扉を引くと木々の軋む音がしたが、まだ大丈夫だ、とアウラは思いながら我が家へ入る。木の板を合わせただけの掘っ建て小屋だが、この世界ではあるだけで贅沢の部類だった。…